トランスパレンシー

7/7
前へ
/7ページ
次へ
僕は年期の入ったドアノブを回して外へ出る。 小さな階段を下ると、 そこは鼻が感じた雨の匂いに満ちていた。 この店がいつもで良かった。 熱すぎないのも、冷ませるのも、和紙のような手触りのこの紙コップだからだ。 横顔は、店の前で座り込んでいた。 傘をさして、 僕はコーヒーを持ち直す。 しっとりとしみこんでゆく 指先。 僕と重なるから、だろうか。 それともただ単に、 惹かれた、からだろうか。 ネオン街はキラキラと 雨に霞んでゆく。 傘とコーヒーをさしだした手は、一方通行でも良いから。 また、小さく始まってゆく。 「いつも」ではない、 優しい時間。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加