ある日、ある戦場で

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「だっははっ!もう仕舞いかよ!」 石造りの砦の前、一人の大男が片手に人の頭を掴み、もう片方にその巨体に見劣りしない斧を持って高らかに笑う。 「はぁ、つまんねぇな。こんなもんかよ」 頭を掴まれている男は既に絶命しているらしく人形のようにぶら下がる。 その倍の大きさの大男はあからさまな溜め息をついて、それを投げ捨てた。 頭の歪んだ死体が落ちた場所、そこには同じような死体が山を成していた。 「くっ…怯むな!何を一人に手こずっている!」 指揮官らしき男が声を張り上げるが、誰一人動かない。 「駄目だぜ。そういう時はまず自分が手本を見せないとな」 不気味に顔を歪ませた大男がその太い腕を驚きに固まる指揮官に振り下ろす。 しかし、それは大きな音もなく土煙を上げただけで終わった。 「同感だ。前線指揮は自らの勇姿で部下を鼓舞するものだと俺も思う」 大きな拳を片手で止める男。 筋肉質ではあるが、普通の体格。黒の短髪、そして黒の鎧。それ故に耳の真っ赤なピアスが良く映える。 「だから、お前もそのための犠牲になってくれ」 掴んだ腕を捻る。すると大男の体が宙に浮き、造作もなく地面に倒されてしまう。 戦場が驚きに固まった数秒の間に、男はその体に乗り鳩尾を拳で突いて意識を刈り取っていた。 「ふぅ……お前風に言うなら、もう仕舞いかよってか?“鬼腕”ワンダー・ダルザ捕獲完了」 白目を向いた大男の腹の上で堂々と立つその姿。 それを見て、確かに兵士達は息を吹き返していた。
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