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【むねがいたい】
シャワーを使い、大急ぎで制服に着替えて更衣室を飛び出す。外を回った時、生徒会室にはまだ明かりが見えていた。
この時だけは、自分の憂鬱な「任務」も忘れて急ぎ足になる。
先輩いるかな。帰る前に顔見られたらラッキーだな。
ドキドキしながら、生徒会室のドアをノックする。
「失礼しまーす……」
会長席のすぐ脇。書記のクロム先輩は、いつもそこで書き物をしている。議事録の作成や毎月の書記局便り、行事毎のプログラム作成、書記って地味に書記局の中でも一番忙しい。
ドアを開けると、やっぱり定位置にいたクロム先輩が顔をあげた。
「はい、どうぞ。何か忘れ物ですか?」
「いいえ。あのぅ……例によって、預かってしまって……」
少し困ったような、先輩の微笑。私の知る限り、私が渡したプレゼントや手紙の主には全部断っているそうだけれど、それでもそうやって優しい顔をするから。
ああ、胸が痛い。ズキズキ、張り裂けそう。
きっとあの人にも、少し困った、でも優しい顔で、優しく丁寧に話し掛けるんだろうな。
誰にでも平等。だから、誰もクロム先輩の特別になれない。
なってみたいな。隣に並んでみたいな。私にも、チャンスはあるかな。
「……じゃあ、確かにお渡ししました。私はこれで……」
「ああ、テオさん」
意気地無しの背中に優しい声。
肩に細い指がかかって、背中からすっぽり包まれる。
「あと少しで終わりますから。待っていてくれませんか?」
何の気まぐれか、優しい、甘い、声。
何かのテンション振り切ってしまった私は、くるりと向きを入れ替え、あろうことか先輩に思い切り抱き着いてしまった。
「……さっきのプレゼント……断るって約束してくれたら待ってます」
ああ、胸が痛い。ドキドキ、破裂しそう。
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