5人が本棚に入れています
本棚に追加
【朝の風景】
朝。白く霞んだ春の晴天の下、赤い自転車が疾走していく。
上り坂に差し掛かれば立ちこぎをして、制服のスカートが捲れるのも気にする様子がない運転手は、前方に見知った後ろ姿を見つけ肺一杯に息を吸い込んだ。
「喜桜くんオハヨー!押して、後ろ押してー!」
周りを歩く同じ制服の面々の方が先に、クスクスと振り返る。
大声で呼ばれてしまった当人は、非常に渋い顔でその歩みを止めた。
追い抜く間際、荷台部分をがっつり掴まれ、自転車は一気に加速する。
「普通に呼んでくれ!毎朝毎朝恥ずかしい!」
「だって途中で止まったら漕ぎ出すの大変でしょー?」
「どうせ押させるくせに……」
「あははっ!喜桜くんだってどうせ毎朝乗っかってくんだから、文句いわなーい!」
上り坂ももうすぐ終わり。
自転車を押す喜桜の足が速くなっていく。
ハンドルをしっかり握り締め、運転手…テオは頂点に差し掛かる寸前に笑顔を弾けさせた。
「よーし!来いっ、きおー!」
「だからうるさい!!」
喜桜が後ろから飛び乗った瞬間、グラグラと揺れながら自転車は坂を下りはじめる。
きゃーとかわーとか、実に楽しげで喧しい悲鳴が空へ突き抜けていった。
最初のコメントを投稿しよう!