香る-ドラッグストアにて-

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【香る -ドラッグストアにて-】 書類の整理や処分をしていると、日に日に手から潤いが失われていく。 一応気にして風呂上りにはボディミルクを欠かさないようにしていたのだけれど、ついにはカサカサと白っぽく粉を吹くにいたり、テオはようやく対策が甘いらしいと気がついた。 「ハンドクリームは好きじゃないんだけどな……」 なるべくベタつきの少ないものがいい、学校で使うものと寝る前に使うものは使い分けよう、保湿効果の高い入浴剤も欲しい。 やってきたドラッグストアの店内をさまよううち、ほんの一瞬何かに意識が刺激され、テオは咄嗟に振り返った。 ちょうど人足が途絶えた店内は、商品整理の店員の姿しかない。 何だろう? 立ち止まったまま首を傾げるテオに勘違いをして、香水の商品棚を弄っていた店員は荷台を押してバックヤードへと引っ込んでいった。 視界を遮るものがなくなり目に入ってきたのは、覚えのある香水のボトル。 彼がそれを学校で取り出しているところなど見たことはないけれど、男女問わず人気の高い有名な香水だ。あまり詳しくないテオでも、香りだけでそうとわかる。 「プールオム。」 きっと店員が商品の入れ替えをするうちに、サンプルが香ってきたのだろう。 値段は3,600円。決まった金額の小遣いをもらっていないテオには少々痛い出費だが、正規の店舗で買うより遥かに安い筈で。 その時はあまり深くは考えなかった。ただ、たった一つお揃いの物を持つだけで、今よりもう少しだけその人に近づけるような、そんな稚拙で純粋な恋心が購入を焚きつけた。 馬鹿げた衝動買いに思わぬ意味が生まれたのは就寝前。 ルームフレグランス代わりに空中へ一吹きしてみると、香りに刺激された記憶が一気に溢れ返ってきた。 ―― もしかしたら、夢の中で会えるんじゃないか。 ―― 多忙な日々に感じる寂しさも、少しは紛れるんじゃないか。 思惑通り夢に彼の人が現れることはなかったが、寝る前の一吹きはテオの密やかなまじないごととなり、普段使う香水までも入れ替えてしまうのにそう日数はかからなかった。 「香水。同じですね」 まさか自分の香水が変わった事に気付いてくれるとは思わなかったため、彼のそんな一言にギクリとしたのは七日後のこと。
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