4人が本棚に入れています
本棚に追加
とにかく、事故を防ぐためには、雅樹を外出させないことが一番だった。
「母さん!どっか行こうよ!」
しかし、雅樹は紗枝の言葉を無視している。
「そうねえ……」
母が迷っている。こういう時は雅樹に押し通されてしまうことが多いのだが、今日はそういうわけにはいかない。
紗枝は反対し続けた。
「わかったわかった」
母が溜息をついた。
「紗枝、今日は我慢して、遊びに行こう?最近、どこにも出かけてなかったしね」
雅樹を喜ばせるその言葉は、紗枝を絶望させた。
いつだって、母の決断は絶対だった。
「死者は蘇らない」……確か、男はそう言った。
「よっしゃ!母さん、どこ行くの?」
雅樹がはしゃいでいる。
その明るい声に、紗枝の絶望の色がさらに濃くなった。
しかし、まだ諦めるわけにはいかなかった。
雅樹が事故に遭わないように、自分が見張っていればいい……。
紗枝は、冷めたコーヒー牛乳を一気飲み干した。
今の紗枝に、母の味は甘すぎた。
最初のコメントを投稿しよう!