プロローグ

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 目を覚ますと、懐かしい天井が見えた。  紗枝(サエ)を包む布団の匂い、寝返りをうつと軋む2段ベッド、カーテンの隙間から漏れる光……。  この光景すべてが、紗枝が過去に失ったものだった。  紗枝は2段ベッドの下の階を覗いた。  寝相の悪い兄の雅樹(マサキ)は、足をベッドからはみ出させて気持ちよさそうに眠っていた。 「……お兄ちゃん……」  今はもう見ることのできない顔に、紗枝の胸が熱くなった。  なぜなら、彼は今日……交通事故で死んでしまうのだから……。
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