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「まだ、過去をやり直したいと思っているかい?」
会社帰りの紗枝を呼び止めた男は、唐突にそう言った。
周りが暗いので顔はよく見えないが、会うのは初めてではない気がした。
しかし、誰なのか思い出せなかった。
怪しいとは思ったが、危険だとは感じなかった。
「はい」
気づくと、紗枝はそう答えていた。
「……本当に、やり直せるなら」
その答えに満足したように、男は頷いた。
「それなら、これを使うといい」
そういって男が紗枝に手渡したのは、小さな銀色のケースだった。
開けてみると、中には一粒の錠剤が入っていた。
「なんですか?これ」
紗枝が尋ねると、男は一言、
「望みを叶えてくれるものだよ」
とだけ言った。
紗枝が何も言えずにいると、男は笑って言った。
「怖いなら、使わなくても構わないからね」
そして、こう付け加えた。
「でも……これだけはわかってほしい」
その顔は、真剣そのものだった。
「死者は蘇らない……絶対に」
紗枝が顔をあげると、男は微笑んだ。
「効果は24時間。チャンスは1度きりだ」
健闘を祈る、と男は言った。
そして、紗枝に背を向けて歩き始めた。
「あの……!」
紗枝は思い切って呼び止めた。
「どうして……こんなものを私にくれるんですか?」
男は振り返った。
「……そのうち、わかるよ。きっと」
そして、今度は本当に紗枝の前から去っていった。
あとには、紗枝と薬だけが残された。
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