プロローグ

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――4年前 その日は、 真綿のような真っ白な雪が深々と降りしきる、寒い日だった。 昨夜から降り出した雪は、予想通り多種多様な街並みを純粋な白へと変えている。 「……えぇ、日下部教授がよろしくとの事です。 お父さんはこれからお義母さんの検診ですか?」 夜勤明けで少し熱を帯びる瞼に、その白が眩しく突き刺さった。 病院の敷地内にある患者達の憩いの場は、 まだ誰も踏み入れていない、ふかふかの真白(マシロ)なカーペットで覆われている。 そこへ足を一歩踏み込むと、 柔らかな雪がギュッと鳴った。 この世の中に、本当に純粋なものなど存在しないだろう。 この純白の雪だって、大気の汚れを含んだ薄汚れた白だ。 人に踏み固められ、泥を吸ってドンドン灰色になって行く…。 「……お父さん、雪だるまの作り方を、ご存知ですか?」 足裏に踏み締められた雪の悲鳴を感じ、 何気に振り返るとそこには、 自分の作った“道”が出来ていた。 「…あぁ、いえ、担当している子供にせがまれまして」 軽い嘘で愚かな問いを隠し、 『院内禁煙』の看板を無視して煙草に火を点ける。 私には、“雪だるまを作った”なんて如何にも子供らしく愉しげな想い出はない…。 あいつには、たらふくあるのだろうか? 生まれて来る新たな“弟”は、経験するのだろうか? 「お父さん、良い事を教えてあげましょうか?」 父は自分で車を運転する事を好み、運転手は使わない。 凍りついた道路は、さぞかし滑りが良くなっている事だろう…。 「…お腹にいる子供、あなたの子供じゃありませんよ」  
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