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「………ん~…」
ムニャムニャと口元を歪め、
閉じられた瞼がゆっくりと持ち上がる。
実の所、俺はこの様子を見守る瞬間が好きだった。
どんな彼女の仕草もたまらなく愛しいが、何と言うか、
彼女の瞳が最初に捉えるのが、
自分の姿であると言う点が気に入っている。
まさに、“雛が初めて見るものを親だと思う”的発想かも知れないが…。
恐らく、彼女の視線を独占したいと言う、独占欲の表れなんだろうな。
「おはよう、お姫様」
髪を撫でてやると寝ぼけ眼を擦り、俺を見上げた彼女の瞳が笑んだ。
「…ぁ、おはょ……朝?」
そんな間抜けな一言でさえ、
俺をこんなにもときめかせる彼女は一体、何者なのだろうか…。
「…ん……ぁ?」
ようやく回転し始めた彼女の脳が、天窓の外に広がる夜空を認識した。
「…ぅ、うそつき」
頬が膨らみ、起こしてくれとせがむ腕が伸ばされる。
「くっくっ、ただいま」
俺はその腕を首に絡めさせ、彼女の躰をソファーから引き剥がした。
「お帰りなさい、お疲れ様です」
大切な温もりを胸に抱き、
その感触と香りを確かめ合う。
「ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも……」
もぞもぞと首に絡めた腕を解き、彼女は上目遣いで俺に問う。
「……わ、わ・た・し?❤」
人差し指を顎に添え、首をちょこんと傾げている。
「……………」
無言で彼女を見下ろしていると、笑える位に顔が赤く染まり、両手で顔面を覆って俯いてしまった。
「誰の入れ知恵?」
「……あ、亜紀達が…言えって」
ボソボソと零し、情けなく丸まる。
俺はその躰をソファーへ転がし、イルカのタイピンを外してネクタイを弛めた。
「…くすっ、俺がどれを選ぶが判ってるくせに」
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