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孝太は少女が不思議そうに丸めた目でこちらを見ているのに気が付いた。
沙弥の顔を見て取り乱したことが少々気恥ずかしくなり、わざとらしく咳払いをする。
「あんたは……昨日も会ったよな?」
イチハは分からない、と口で言うよりも早く、態度で示した。
取れてしまうのではと危惧するほど自然に、ことりと首をかしげる。
「イチハ、知らない」
「森の中でだ、会ったろ?」
「知らない」
「沙弥の居場所を知っていたくせに、すっとぼけたことを……」
掴み掛からんばかりにイチハに詰め寄る孝太を、沙弥が彼の裾を引っ張り制する。
「本当よ、コタ。その子は、ずっと私といた」
「じゃああれは……」
誰なんだよ。
そんな言葉を口に出せる程、楽観的な状況ではなかった。
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