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「ここから出るぞ、今すぐ」
孝太は沙弥に告げた。
入り口の方に顎をしゃくって促す。
「ダメ、なの。コタ、ごめん、私、ケガしてる」
指で右足を示すが、些細な身動きも辛いのか、顔を歪めた。
「山道って足場が悪くて、折れてはないと思うけど……」
「だったら俺がおぶってやる、ここを出るぞ」
問答の間中、孝太は一度も、イチハを見ようとはしなかった。
イチハの方は、癇癪を起こしかけている孝太を、珍しい物でも見るようにまじまじと見つめている。
「ここにいた方が、いい」
イチハが口を開くと、孝太の怒りの矛先が向いた。
「こんな訳分かんねえ森に長居できるか。こっちはな、沙弥を盗まれて、監禁されたも同然なんだよ。俺らは帰るんだ」
「見付かる」
その言葉に、沙弥は川に落ちた小動物のように身を震わせた。
「奴らは追いかけてくる」
予言めいた言葉に不気味さを感じたものの、言い返そうと息を吸い込んだとき、沙弥が訴えるように言った。
「コタ、私がケガしたのはね……人間の仕掛けた、罠に引っ掛かったからなの……」
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