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誰かが、すすり泣いている声が聞こえた。
その声に誘われて暗い眠りから目を覚ますと、側頭部が痛んだ。
針金で内部をかき混ぜられるような鋭い痛みに、孝太は顔を歪めた。
寝そべっていた床から身体を起こすと、一倍の痛みに視界が回る。
何とかバランスを取り、光の差し込む方に目をやると、沙弥が部屋の隅でうずくまり嗚咽していた。
「……えっ……えぅ、うぅ……っ」
「どうした?沙弥……」
孝太は一瞬で、多数の全身を戦慄させるような最悪な展開を予想した。
沙弥が泣きじゃくるなど、珍しいことだったからだ。
「コ、タ……」
顔を向けた沙弥の目に、驚きと怯えが走った。
沙弥の視線は孝太に固定されている。
孝太はその視線の先を見て、心臓の中に氷水を注がれた気がした。
着ていたシャツにはべっとりと、血が付いていたのだ。
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