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目を開いても尚仄暗い闇の中で、千代羽は赤い唇をにぃ、と開き笑んでいた。
その足下には、両手両足を縄で結って拘束され、転がされている衣知羽。
孝太は、少女が浮かべている残忍な微笑みに慄然とする。
月明かりだけが差し込む無機質な部屋……静寂の中で秒を追うごとに膨張する緊張感が、鼓動を速くさせる。
千代羽は人形のように愛らしい、けれども冷酷な表情のまま、手にしたモノを衣知羽の目前の床に突き刺す。
光源が月明かりのみにも関わらず、それは鋭いながらも歪な光を放っていた。
────刀だ!
孝太は何も考えず、身体を起こした。
しかし起き上がることは叶わなかった。
指の一本ですら自由にはならない。
まるで身体中の血液が鉛となって床に磔にされているようだ。
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