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木々の葉は夕陽を遮り、目に見えぬ恐怖を沸き立たせた。
震える沙弥の手に手を携えて進むものの、恐怖心は拭えない。
彼女が足に負った怪我は快方に向かっているが、やはり山道を歩かせるのは無謀だったろうか。
しかし千代羽の屋敷を知ることは重要であったし、沙弥を一人残しておく訳にもいかなかった。
「こっち。サヤ、頑張れ」
衣知羽は出会った頃と同じように、踊るように野道を駆けている。
外出が極端に少ないためか、その肌は夕陽を浴びていても、白い。
肩まで伸びた白い髪が、日に透けて、返り血のように見えた。
夕陽が見せる血のイメージが“神事”での衣知羽の姿を彷彿とさせたが、孝太は頭を振って追い払った。
「道に詳しいな、お前」
「衣知羽、昔、住んでた」
そう話した衣知羽の顔が暗くなったのは、木陰のせいだけではないだろう。
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