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「うるさい」
気がつくと私はテーブルにあったお皿を投げていた。
鋭い音と共に皿の欠片が床に飛び散った。
「菊実、あんた何て事してんの。大事な仕事道具を割るんじゃありません」
私よりもお皿が大事なのね。
母は割れた皿の破片を丁寧に拾っていた。
「私達にはこの仕事しかないのよ…」
私は母の言葉に反応を見せずに、背を向けた。そして自分の部屋に戻ってバッグの中に目に付くものを押し込んだ。
リビングへは戻らず廊下から、ディッシュを呼ぶ。
「おいで、ディッシュ」
玄関へと向かう私の後ろをトイプードルのディッシュが付いてくる。その後ろから母が追ってくるのがわかる。
「待ちなさい。どこに行くの。まだ話は終わってないわよ」
「私、出て行くから」
母に背を向け、私は扉を開けて外へ飛び出した。
「菊実、待ちなさい。菊実」
絶え間なく聞こえてくる母の声が、私が歩数を増やすごとに小さくなっていき、やがて消えた。
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