始まりの夜

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西の闇に、鈍い赤い色をした満月が浮かんでいる。 静まり返った住宅街、灯りの点いている家は殆ど無い。 入り組んだ道の角ごとに立てられた、塗装の剥げた街灯が不規則に点いたり消えたりを繰り返している。 重い空気が立ち込める住宅街、その奥には公園があった。 錆びた鉄棒と、すべり台しかないような小さな公園。 好き放題に伸びた雑草が至る所に生え、敷地内にある木のベンチも腐りかけている。しばらく誰も近寄っていない様子がうかがえた。 一層深い闇が公園一帯を覆っているようだった。 誰も近づかない公園。誰もいるはずのない公園。 その公園に、何かの塊が見える。腐ったベンチの上に丸まった塊。 月の光に照らされて、塊は徐々に輪郭を現す。 ベンチには老人が独り座っていた。 後頭部に僅かな白髪を残し、ベージュ色の薄いコートを羽織った男だった。 背中を小さく丸め、首はうなだれている。ただじっと俯いたまま動かなかった。 公園に設置されている時計が、針を進める音だけが、辺りに響く。 どれくらいの時が進んだだろうか、時計が深夜2時を示した時だった。
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