菊実

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カーテンの隙間から見える東の空が、白け始めてきている。 午前4時。もうすぐ夜が明ける。 静かなリビングに聞こえてくる、遠くで鳴くカラスの声。 街で餌でも見つけて、仲間にでも知らせているのかな。 そんなどうでもいい事を考えながら、私はソファに腰を沈めた。 今日も母はまだ仕事から戻ってきていない。 「起きて待ってる必要なんてないのに」 自分の耳に聞こえるように、あえて私は言葉を発した。 テーブルにあった雑誌をパラパラとめくってみる。 今日だけで何度も読み返している雑誌は、今更読んだって、ちっとも面白くない。 それでも何もしてないよりはマシだった。 私の隣ではトイプードルのディッシュが小さな寝息をたてている。 時折、耳がピクッと動くのが何とも可愛らしい。 その姿が私に束の間の安らぎをくれた。 その時だった。玄関の方からドアの鍵が開く音がした。 母が帰ってきた。 私は意識的に息を潜めて、足を折り曲げて身を縮める。 リビングに母が来る。 私は母の存在に気づかないかのように、ただ雑誌をめくり続けた。 「まあ、まだ起きてたの?どうせやる事無いんだから、早く寝なさいよ」 心ない言葉に奥歯を噛み締めて、私はあえて聞こえないフリをした。 そんな私の後ろを母が通り過ぎる。母の歩いた跡に、お酒の匂いが残った。
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