菊実

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幼い頃から仕事の役割や重要性を言い聞かされてきた。 けど、私は興味が無くて詳しくは覚えていない。 ただ、江戸時代から続く由緒正しいものらしいことと、代々女性が継ぎ、初代は「お菊」という女性だったという事は覚えている。 そして二十歳になると、母から仕事場を引き継ぐ……と、いうことだった。 私は、半年後に二十歳の誕生日を迎える。 そしてその日から、夜な夜な井戸の前で、皿を数える仕事をしなければならなかった。 「時代遅れって、そういう事はしっかり仕事ができるようになってから言いなさい。第一、ただお皿を数えるだけじゃないのよ。菊実はわかってないようだけど、お皿も……」 「わかってるわよ。もう何回も聞いた。お皿も一人のお客さんにつき九枚以上は数えてはいけないんでしょ」 「知ってる『だけ』と、実際に『できる』では、全然違うのよ。練習もしないで、もし、失敗して十枚数えてしまったら……そう思うとお母さん、お祖母ちゃん達に顔向けできないわ」 顔を合わせるといつも喧嘩になってしまう。 「失敗なんてするかっ。ただお皿数えるだけで」 こんな言い争いをするつもりで母の帰りを待っていたんじゃないのに…… 「それに何が九枚以上数えちゃいけない、よ。いつも十枚以上お皿持ち歩いてて。一枚足りないどころじゃないじゃない」 母は毎日、何十枚ものお皿を持って出勤していた。 「だから毎日疲れるんでしょ。お母さんこそ仕事の意味忘れてるんじやないの?それに……」 「それに何なのよ」 私は一瞬言葉を躊躇う。でも……
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