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「それに、お母さんは私が気づいてないと思ってるようだけど、私はちゃんと知ってるんだからね」
言ってしまった。
「な、何を知ってるって言うの」
「先祖代々受け継いでるっていう仕事場、姫路のあの井戸で、ずいぶん前から仕事してないって事よ」
母の表情が固まった。
祖母の代までは、姫路にある有名な井戸が私達の家系が仕事をしていた場所だった。
でも、母の代の1993年に世界的な遺産として、その井戸を含む周辺の建物が文化遺産として登録されてしまった。
その為、建造物の警備がこれまで以上に厳しくなって、容易に井戸にも近寄れなくなってしまった。
それは私が二歳の時からになる。
今の時代、私達のような者が仕事を続けられる環境が少なくなってきている。
それは母のせいじゃない事はわかっている。
「何が由緒正しい仕事よ。今は縁も何も無いような井戸を転々としてるんでしょ。しかも井戸自体の数も少なくなってきてるから、井戸を見つけてはその家の主人に頭下げて、媚び売って、皿を数えさせてもらってるんでしょ」
「それでも伝統を絶やさないように…」
母の声が弱々しい。対して私の声は大きくなる。
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