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「何が伝統よ。そんな形だけ残した仕事してて何になるの」
母が鋭い目で私を見つめた。
「生活のためよ。菊実はそれで育ったのよ。これが私達の仕事なの」
私も母を睨みつける。
「それが時代遅れだっていうの。みんな仕事を変えてるんだよ。四谷のとこの大岩さんだって、美容整形のお店で成功してるし、下関の芳一さんだって琵琶をギターに持ち替えて、先月にメジャーデビューしたんだから」
「何でそんな事知ってるのよ」
「ネットよ」
「そんなものばかり見て…人は人、うちはうちです。大体そんな夢見てどうするの。成功っていてもね、ほんの一握りだっていうのがわからないの?それに私達は伝統を守らないといけないの」
「またそれ?お母さんは何もわかっていない」
「わかっていないのは菊実の方よ」
話が進まない。母と二人暮らし。女二人の喧嘩はいつもこうなってしまう。
「もういい」
「何がもういいのよ」
「私には他にやりたい事があるの。お母さんみたいになりたくないの」
「やりたい事って何よ。菊実に何ができるの?」
何ができるの?じゃあお母さんは?私の中の何かが音を立てて切れた。
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