其ノ一[身代わり]

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その日から彼の病状は回復の一途を辿る。 あんなに悪かったのが嘘のように身体が軽くなった。 そしてついに、退院の日となる。 もう窓から外を見て過ごすこともない。 晴れやかな彼だが一つだけ心残りがあった。 それは病院の隅に植えられていた水仙の花。 毎日水をやっていた小さな花畑は、熱で寝込む前に小さな蕾を付けていたはずだった。 それが今では咲いた痕跡もなく蕾の下あたりで切られている。 まるで大きな鎌でスッパリ切り取られたようだと、知り合いの看護士が彼に言った。 私の話は以上です。 お次はどなたでございましょう?
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