其ノ二[夢]

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彼女は夢を恐れていた。 何故なら、十六になった日から毎晩同じ夢を見るからだ。 一夜目、彼女は道を走っていた。 横幅は広く、辺りは何もない。 一本道をひたすら走る夢。 二夜目、やはり走り続けていた。 だが何もないと思った風景にうっすらと町並みが見える。 そこで彼女は初めて、自分の周りから道の果てまで濃い霧に包まれていると気づいた。 三夜目、町並みがまたはっきりしてくる。 最初の頃とは違って、店に立て掛けられた看板も読めるほどになった。 そして辺りの霧が、どこか赤みを帯びていることも知った。 四夜目、走っても走っても終わりは見えてこない。 ただ一心不乱に走る。 振り返ってはいけない、とこの頃から思うようになった。 五夜目、霧が身体に纏わり付く。 自分の背後が恐くて仕方がない。 気のせいか息苦しさを感じた。 六夜目、走る自分の足音がしないことに気づいた。 息遣いも聞こえない。 無音が支配するその世界から逃げたかった。 夢だと知っているのに心が怯えるのがわかる。 彼女は眠ることが嫌になった。 七夜目、やつれた顔でベッドに入る。 けだるさに誘われてすぐに眠りに落ちた。 しかしその夜、あの夢を見ることはなかった。
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