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彼女は夢を恐れていた。
何故なら、十六になった日から毎晩同じ夢を見るからだ。
一夜目、彼女は道を走っていた。
横幅は広く、辺りは何もない。
一本道をひたすら走る夢。
二夜目、やはり走り続けていた。
だが何もないと思った風景にうっすらと町並みが見える。
そこで彼女は初めて、自分の周りから道の果てまで濃い霧に包まれていると気づいた。
三夜目、町並みがまたはっきりしてくる。
最初の頃とは違って、店に立て掛けられた看板も読めるほどになった。
そして辺りの霧が、どこか赤みを帯びていることも知った。
四夜目、走っても走っても終わりは見えてこない。
ただ一心不乱に走る。
振り返ってはいけない、とこの頃から思うようになった。
五夜目、霧が身体に纏わり付く。
自分の背後が恐くて仕方がない。
気のせいか息苦しさを感じた。
六夜目、走る自分の足音がしないことに気づいた。
息遣いも聞こえない。
無音が支配するその世界から逃げたかった。
夢だと知っているのに心が怯えるのがわかる。
彼女は眠ることが嫌になった。
七夜目、やつれた顔でベッドに入る。
けだるさに誘われてすぐに眠りに落ちた。
しかしその夜、あの夢を見ることはなかった。
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