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「ここが、図書室で~こっちが美術室ね。んで~、こっちの階段を上ると、3年棟だよ。分かった?」
転校生はうん。と頷いただけだった。
私はあの後、転校生の手を引いて学校案内を始めた。
「あれ?鈴嘩さん。」
後ろを振り向くと、両手に沢山の資料を抱えた女顔の男が立っていた。
「あ、沖浦先生。」
沖浦先生とは私のクラスの副担任だ。
クラスで最も人気のある先生だ。
「そういえば鈴嘩さん、授業中寝てたらしいね。」
沖浦先生はくくっと笑う。
「まぁ君らしいと言えば君らしいんだけど、」
「……私めったに授業中居眠りなんてしませんよ?」
自分で言うのもなんだが、結構真面目なほうだと思う。
「いや、昔のことを思い出してね。あんまり気にしなくていいよ。」
沖浦先生はまだ笑っている。
よく分からない。
「んじゃ、遅くならないうちに帰るんだよ。」
それだけ言うと、沖浦先生は笑いながら歩いていった。
窓の外を見ると、空は日が落ち始め、綺麗な朱に染まっている。
校舎内にはもう人影が無くなっていた。
そういえば今思ったが、さっきから喋っているのは私だけで、転校生は一言も喋っていない。
ずっと私を見て微笑んだままだ。
人懐っこいのか、楽しいことがあったのか分かんないけど。
とにかく変な感じだ。
「んで、ここが昇降口。以上!案内終わりっ!!」
そう言って私は繋いでいた手を離そうとするが、転校生は手を離してくれない。
「え~と…私帰りたいんだけど…」
そう言うと、転校生は一度私を見て、ニコッと笑った。
「―――次は私の番。」
「え?」
脳内にそんな言葉が聞こえてきた。
気がついたときには何故か転校生に手を引かれ走っていた。
「―――早く助けてあげて。」
「ちょっ!!どういう意味なの!?」
私は訳が分からないまま昇降口から外に引っ張られて出て行ってしまった。
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