奥多摩伝説

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1985年 5月 奥多摩有料道路      凄まじいエキゾーストノート(排気音)が飛び交い、バイクがワィンディングロードを疾走する。 皮のツナギを来て、バイクレースのマシンにバックミラーや保安部品を付けただけの様なレーサーレプリカと呼ばれるハイスペックバイクを駆り峠を疾走する走り屋達。   今日も奥多摩には凄まじい轟音とカストロールオイルが焼ける甘いにおいが立ち込めていた。 「お前今日乗れてんじゃん」 「あたぼうよ、ステップガリガリだぜぇ」  「メット変えたのかよ」 「平忠彦の8耐テック21仕様よカッケ~だろ」 「やっぱヤマハが1番だよなぁ」 「馬鹿いえ、ホンダが1番に決まってんだろ」 「キングケ二ーもフレディスペンサーには負けたしな」 「阿呆かお前、そのあとキングの弟子のエディローソンがかたき取ったじゃねえか?」 「お前らミーハーなんだよ、派手なテールスライドのアメリカンライダーばっか応援してよぉ、俺は美しいリーンウィズで走るクリスチャンサロンが渋いと思うぜぇ!雨のクリスチャンサロンってなぁ、技だよ、技!」 「馬鹿こけ、このお、雨で強いのはランディマモラに決まってるんだ」 世の中には2種類の人間がいる、自己主体でストイックにその道を追究する人間と、主体になる事を早々と諦め、その道に所属する事事態を楽しむ人間だ。 後者は俗にミーハー族と呼ばれる。 ミーハー族が便所コーナー沿いの砂利駐でだべっている中、ストイックなライダー達は便所コーナーのヘアピンカーブを限界まで攻め込んでいる。 ミーハー族達の会話は世界GP事情のマクロな話題から身近な話題へと移る、奥多摩の常連ライダー達の話題へ 「お~水色FZ今日気合い入ってんなぁ、膝べったりついてんじゃん」 「直管小僧は遅えくせに、目茶苦茶うるせぇな」 「お!ロンパリドカが来たぞ、ってことは……おい!カラスだぁ千葉のカラスが来てるぞぉ!」 「ええぇぇぇ!」 みな会話を止め、ワィンディングロードをきょろきょろと見渡す。 ワィンディングをゆっくりと走るロンパリドカを見た地元の常連達が走る事を止め、続々と砂利駐に戻ってくる。 その様子を見た他のライダー達まで集まって来た。 たちまち、奥多摩名物便所コーナーヘアピンカーブ脇の砂利駐はバイクと人で一杯になった。
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