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人は昔から宇宙(そら)に憧れ生きてきた。
自分達が見上げる空は永遠と続く。
どこまでも満ちている大気。
まさか、僅か120キロ先が空気も重力も無い、宇宙だったなんて思いもしなかったに違いない。
知っていれば、砲弾に人を乗せて飛ばすだなんて構想も記録されてはいなかっただろう。
大真面目にそんな絵図を描いた人達には悪いが、月への移住を可能にした現在――。
いや、少なくともボストーク1号に乗り、ガガーリンが宇宙へ飛び立った1961年頃の人類にとっては、それはあまりに滑稽な話しだ。
しかし、決して彼等を愚弄している訳ではない。
その努力と飽くなき夢への探求心があったからこそ、月への移住を可能とした。
さもなくば、私がここにいるはずも無いのだ。
「あーあー、あれ? もう繋がってる? ……あ、繋がってるね。ごめん、ごめん。えー、こちら宇宙開発局。異常はない? そっちにうまいワインはあったかい?」
週に一度ある、地球からの定期連絡。
月へ建てられた仮設基地に、試験的な移住をしてきて早2年。
ともなれば、目立った異常や情報などしょっちゅうあるはずもない。
加えて収集データは毎日送っているのだから、映像通信は終始こんな調子だったりする。
ちなみに今のは、前の定期連絡で「地球に帰ったらうまい酒が飲みたい」と言ったことをからかったものだ。
ジョークだなんて面白いものではない。
禁酒を余儀なくされている私にとっては、ただの意地悪だ。
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