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杏に促されるまま、椅子に座った俺は
このどこか重苦しく鬱屈とした雰囲気に飲まれてしまい、らしくもなく言葉すら発せずにいた。
杏もまた左手の薬指のリングに触れながら、今なお俯いたままの沈黙を貫いている。
それにしても
「.....」
コイツ、また一段と美しくなった。
2ヶ月という会えなかった時間の間に
一体何があったのかと疑いたくなるくらいにだ。
美しく艶やかな黒髪を緩く結び上げ
表情こそ見えないが、首筋から鎖骨までのキレイなラインは思わず
むしゃぶり付きたくなるほどの色香。
学生の頃とは明らかに違う
【大人の女】になった杏が醸し出す全てのオーラに
今さらながら強烈な武者震いすら覚える。
.....綺麗だ。
油断をしてたら思わず口に出てしまいそうな言葉を
どうにかこうにか抑える。
「杏」
しかし今は、俺の【謝罪】が何より最優先事項だ。
そこに、どんな理由も弁明も必要無い。
安直に「仕事を辞めれば良い」などと発言し
お前を傷つけたことに変わりは無いのだから。
コレは俺のケジメ。
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