夏祭り

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しかし……。 社長室に招き入れられ足を踏み入れた人物に俺は……度肝を抜かされる。 思わずその姿に目も心も奪われ、思考能力も停止する。 「そ……そんな見ないでよ……」 俺にガン見されたその人物は恥ずかしそうに俯く。 廉は「ほいじゃ後はよろしく!」などと言って、持っていた携帯を俺に向かって投げてきた。 ボーッとしてた俺はその携帯を落としそうになるも、どうにかこうにかキャッチすることは出来た。 でもまだ視線は……その人物へと向けられたまま。 そう、鮮やかな紺色の浴衣を纏った……少し、いや!かなり艶っぽい杏の姿を。 「に、似合ってるかな……?」 恥ずかしそうに尋ねる杏に 「な、何で……?」 と、質問返しをしてしまう余裕のない俺。 仕方ねぇだろ、この世のものとは思えないほどキレイだからよ。 「え……?な何でって、最初からそのつもりだったんだよ。竜には内緒でねって廉さんには言われてたけど……」 「………あんにゃろ」 粋なことしてくれるじゃねぇか。 今日1日のアイツの悪行をすべてリセットしてやれるくらいのナイスアシストだ。 恐らく廊下の向こうで、ほくそ笑んでいる廉を多少悔しく思いながらも……俺はここは素直に感謝した。 「早く行こ!屋台のもの無くなっちゃうよ」 照れ隠しからか杏は俺の顔をあまり見ないように、俺の腕を取った。 「んな慌てなくても無くならねぇよ」 と、俺が言えば 「違う!竜との夏祭りを少しでも長く一緒にいたいの」 なんて可愛いことを言いやがる。 俺は咄嗟に杏を抱き寄せ、その色っぽく上げられた後ろ髪から覗く白いうなじにそっと優しく唇を落とした。 「………アッ………」 どこまでも俺の理性を破壊する杏の声に堪らず 今度は…唇と唇を重ね合わせる。 ホントはこのままここで押し倒したいとこだが……。 困ったように睨みつける杏を見てたら 「わかったよ。行こうぜ夏祭り」 俺の欲望はやむなく撃沈した。
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