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それからは2人、時が経つのも忘れて遊んだ。
水ヨーヨー釣りに金魚すくい、輪投げだってやってみせた。
夏祭りの会場にそぐわない黒スーツの俺が……無邪気に笑う杏の顔が見たいばかりに珍しくハメを外し楽しんだ。
俺の射的の意外な才能に目を丸くして驚く杏。
綿菓子が鼻の頭にくっついて困ったように笑う杏。
滅多に履かない下駄の鼻緒の部分が痛いと言い出す杏。
そのどれもが愛おしくて……俺はコロコロと変わる杏の表情に目が離せなくなる。
俺が当ててみせた射的の賞品のデッカイ熊のぬいぐるみを両手に抱えて、嬉しそうに駆け寄る杏を……思わず抱きしめたくなる。
と、思っていた矢先!
「きゃっ!」
案の定、石畳の小さな溝に下駄が突っ掛かり前のめりに倒れそうになる杏を
間一髪、俺が抱き留めた。
「ばーか、危ないだろ」
「えへへ、ゴメン……あ……」
見上げた杏の顔が……互いの息がかかるほどに近い距離にあり、一瞬にして2人言葉を失う。
いや、言葉なんてもんは……もういらない。
躊躇う杏の顎に指を置き、そのまま俺は今日2度目となるkissを交わした。
人の往来が激しいなか、そこだけまるで時間が止まったような……そんな錯覚にさえ陥る。
いつまでもこうしていたいが……
ゆっくり唇を離すと
「………ばか」
と、いつものように俺の愛しい女が少し怒ったように口を尖らすんだ。
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