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屋上に続く扉の磨りガラスには、花火の光が万華鏡のように映し出されていた。
「竜、早く早く!花火終わっちゃうよぉ~」
「わぁったよ。だけど暗くて、あんま見えねぇんだって」
杏に急かされながら、扉の鍵穴に鍵を差し込む。
カチャリという施錠解除された音と共にドアノブを捻る。
しかし………。
「…………開かねぇ」
「え!?」
不思議に思いながらも、再度鍵穴に鍵を差し込みドアノブを捻ってみた。
「………開いた」
「やったぁ!」
純粋に喜び、いの一番に飛び出して行こうとする杏を俺は咄嗟に引き止めた。
「えっ!?」
キョトン顔で振り向く杏に
「………すげえヤな予感する」
俺は伺うように屋上の辺りをそっと見回した。
すると………
「うわぁ!たっまや~!」
「うおぉぉーっ!」
「キャー!拓馬さまぁ~!」
そう、すげえ聞き慣れた声の連中の無邪気にはしゃぐ様子が伺えた。
「………杏、ここはマズイ」
杏の肩を慌てるように抱き寄せ、もう一度階段を降りて行こうとする。
「え!?なんで?」
幸い……杏はあの声の主らが分かっていなかったようで
「先客がいたようだ」
と、俺が言えば
「そっかぁ……なら教室で見よっか?」
と、素直に笑ってみせた。
そんな杏に少しばかりの罪悪感を抱きながらも
今日のこの善き日に、お邪魔虫なんかに2人だけの時間をめちゃくちゃにされてたまるもんか!
と、いう俺の欲望の方が勝利したのだった。
「でもそっかぁ……やっぱりあの場所って案外メジャーだったんだなぁ」
と、がっかりした様子の杏。
そんな杏の頭を俺は軽く撫でると
「んなガッカリすんな。一生見れねぇもんじゃあるまいし……来年また見に来ようぜ?な?」
落ち込む杏の顔を覗き込んだ。
しばらくすると¨そだね¨と、ようやく杏のいつもの笑顔が戻り……そしてまた俺の腕に自分のものをキツく絡ませてきた。
「じゃ!教室に急ご?でないと花火終わっちゃうよ」
「あぁ、そうだな」
そして階段を2人、仲睦まじく降り始める。
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