第一羽

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「陣川さん、お疲れ様。」 更衣室でそう声を掛けては、はしゃいで帰る女達。 桃子は羨ましかった。 爪先の尖った10センチぐらいあるヒールが履いてみたい。 そう思っていた。 服だって、もっと派手なものを着てみたい。 髪の毛だって、少し茶色に染めてみたい。 だけど、勇気がない。 母から教え込まれたものは、1日や2日で、打開できるものではなかった。 だけど、今日は決めていた。 今までお酒なんか、飲んだこともなかった。 だけど、今日はお酒を飲んでみよう。 この前、駅前で無料で配られている雑誌に、一人でも気軽に行けるお店が紹介されていた。 そこに行ってみよう。 誰も、そんなところはきっと来ないだろう。 桃子は、不良になった気分で嬉しかった。 敷かれたレールの上から、少しはみ出してみたい。 そこには、きっと、経験した事もないような未来が待っている。 たかがバーに行くだけで、そんな冒険をしている気になっていた。
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