第一羽

4/10
前へ
/96ページ
次へ
「陣川さん、おはようございます。」 後ろの方から、桃子を呼ぶ後輩の真美の声がした。 「竹内さん、おはよう。」 真美は、桃子よりも2つ年下の後輩だが、男にモテモテだ。 真美はきっと、ドラマでいうなら主人公だろう。 桃子はそんなくだらない事を思いながら、真美の話を聞いていた。 桃子は話し上手ではないが、よく聞き上手だと言われる。 それは、母の教えでもあったからだ。 話が下手なら、せめて聞き上手になりなさい。 それも口癖のように、聞かされてきたのだ。 「昨日、合コンで知り合ったばかりの男がホテルに誘って来たんですよ、信じられます?会ったばっかりですよ!失礼しちゃいますよね、先輩?」 桃子はうんとも、いいえとも言わず、ただニコニコと真美の話を聞いていた。 それは、相手の話をちゃんと聞いていますよと、伝える手段だ。 桃子は処女だ。 25歳にもなって、処女はおかしいだろうか。 母は、結婚したいと思った相手以外は、女は簡単に股を開いてはいけないと言っていた。 桃子は、それを信じて疑わなかった。 だけど、やっぱり興味はある。 どんなものか、経験したいと思っている。 職場に着くと、真美はすぐに別の人とも、昨日の話しをするのだ。 それを見て、桃子はまた母の言葉を思い出した。 人にベラベラ自分の恥を晒すな。 母の教えは絶対だった。 だけど最近は、少し違う。 鳥のように自由な真美。 その姿に憧れる。 平凡で、平坦な人生には、もう飽き飽きしている。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

251人が本棚に入れています
本棚に追加