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桃子が7歳だった頃、近所で佳代を見かけた事がある。
佳代は、桃子を見ると、笑顔で手を振った。
綺麗なお姉さんだと思った。
母の地味な姿とは違い、とても華やかだった。
母が桃子を縛れば、縛るほど、佳代への憧れが強くなっていた。
だけど、母の気持ちを考えれば、本当はそんな事を思ってはいけなかったのだ。
桃子は、智代が死んでから、少しホッとしていたが、それが今となっては申し訳なくて仕方がなかった。
最後まで、無念だっただろう。
自分が死んだら、佳代が本妻になる事を知っていたんだから。
桃子は、今まで、自分の母や、父の事にあまり興味がなかったが、俊作と付き合うようになり、やはり智代がどんな思いで生きてきたのか、気になるようになっていた。
「桃子、来週から俺出張だから、荷物用意しておいて。」
俊作は、桃子にやたらと甘えるようになっていた。
「はい。」
それでも、桃子はそれが嫌ではなかった。
でも、高志の出張は、本当だったのだろうか。
智代が高志の出張の準備をしている時、後ろ姿がやけに寂しく思えた。
それは、出張と偽って、佳代の家に行く事を知っていたのではないか。
考えれば、考えるほど、智代が不憫になってくる。
「桃子、最近ボーっとして、どうしたんだ?」
気がついたら、俊作の顔が近くにあって、桃子はビックリして、顔が赤くなった。
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