緋想合戦

4/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
だから紫の弁護に立った、雄弁の名の高い上白沢慧音も、四季映姫の同情を乞うよりほかに、策の出づるところを知らなかったらしい。慧音は気の毒そうに、紫の肩を叩いてやりながら「あきらめ給え」と云ったそうである。もっともこの「あきらめ給え」は、地獄逝きの判決を下されたことをあきらめ給えと云ったのだか、弁護士に大金をとられたことをあきらめ給えと云ったのだか、それは誰にも決定出来ない。 その上烏天狗達の新聞の輿論も、紫に同情を寄せたものはほとんど一つもなかったようである。紫の天子を叩きのめしたのは私憤の結果にほかならない。しかもその私憤たるや、己の無知と軽卒とから天子に窘められたのを忌々しがっただけではないか?優勝劣敗の幻想郷にこう云う私憤を洩らすとすれば、愚者にあらずんば狂者である。――という非難が多かったらしい。 現に文々。新聞著者の射命丸文のごときは大体上のような意見と共に、紫の天子を叩きのめしたのも外の世界の危険思想にかぶれたのであろうと論断した。そのせいか紫の天人退治以来、文は壮士のほかにも、白狼天狗を十人飼ったそうである。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!