*名残

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  街を歩いていると、やはり 仲良さげに歩く、恋人同士に目がいってしまう。 私は、街に出た事をすぐに後悔して下を向く。 その時 私を懐かしい香りが包み込む。 この香水の香りは‥ 私は、すぐに顔をあげて辺りを見回す。 あの後ろ姿‥ 雅史だ‥ 「雅史?! 雅史よね?」 私は、込み上げてくるモノを抑えながら声をかける。 雅史は、声に反応して一瞬動きが止まるが、すぐ足早に歩き始める。 私は、叫びながら後を追う。 「雅史っ!! 雅史なんでしょ?!」 「何で? 何でなのよっ!!」 周囲の人達が、私を見ているのがわかる。 でも この感情は抑えられない。 私は、雅史に追いつき腕を掴む。 「雅史ってば!」 雅史は、まだ私の方を向かず、何か小声で呟いている。 「違う‥」 「もう あの頃と違う‥」 「もう雅史じゃない‥」 「私だって、あの頃の私じゃないわよ!」 「でも 忘れられないの! 貴方を‥」 その声が届いたのか‥ 雅史は、ゆっくりと私の方を向く‥ 「だから もう雅史じゃない‥」 「雅子なのよ!!」 私は、綺麗に化粧をした雅史を見つめ、何かが崩れる音を聞いていた‥       ‐完‐  
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