ため息1⃣

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そういえば、レティが 初めに、アレクがそうだと 勘違いしていた オースティン伯爵にも、 あれから間もなく会った。 確かにハンサムだったが 荒々しく危険な雰囲気の あるアレクとは真逆の 柔和そうな人だった。 いくら同じ黒髪だからと いって、二人は似ても 似つかない。間違える なんて、恥ずかし過ぎる。 伯爵は、いかにも無難な 人物だ。レティに初めに ふった話題も、熱心な 聖堂通いを讃えるという ものだった。レティは、 修道院に入るつもりだと いう、自分で流した噂に 真実味を持たせるために しばしば聖堂に通って いる。もちろん、静かで ほとんど誰にも邪魔され ないところは気に入って いるが、心からの信心では ない。ただ、このことを 話題にする紳士は、 大抵の場合、毒のない 性質に見える。たぶん、 伯爵もそうなのだろう。 まあ、何となく優し過ぎて 優柔不断そうに見えるのが 不安といえば不安だ。 変なたとえだが 伯爵は、愛人に子供が できたことを妻に相談し、 双方への申し訳なさの ために永遠に苦悩する タイプに見えるのだ。 つまり、真面目だが、 そう誠実ではない人間に。 その分操縦しやすそうだし たぶんフィルなら、うまく やっていけるだろうが、 果たして妹が愛するに足る 人物なのかどうか。でも、 こういう凡庸な金持ちの 男性を、しっかり 捕まえることができれば 生活には困らないだろう。 アレクは、意地悪で 不真面目だけど、ある種の 誠実さを持っている ような気がする。 でももちろん、それが いいという訳ではない。 ブローチから作り替えた ネックレスが仕上がり フィルに身につけさせた 日にも、会ったので もう一度お礼を言って おこうと思い、レティは アレクに声をかけた。 しかしその時アレクは いつになく不機嫌で 妙に挑発してきた。 「ああ、君か」 「閣下、あの…」 「そうだ、君に聞きたい ことがあったんだ。 フィリエル嬢の周りに 群がっている紳士達、 あれは、どういう 意味なんだ?」 「え…?」
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