嵐の夜1⃣

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「…どういうつもりだ?」 諦めて食堂に向かおうと する途中、玄関ホールで アレクに出くわした。 今日は早くから予定が あるとかで、レティの ために入浴の準備だけ 整えると、早々に 起き出していたのだ。 だから、レティの窮状の ことは、何も知らない。 「アレク…」 「なんでそんな格好…。 他に着るものがいくらでも あるだろう。俺が選んだ ドレスが気に入らないなら 新しいのを…」 リジーはアレクを怖がって いる。クローゼットが 開かないことは、アレクに 言いたくなかった。 もし、このミスを知ったら アレクはリジーを 叱責するだろうから。 それは、かわいそうだ。 「ドレスは…何を着ても いいって言ったじゃない」 「そんなのが 好みだって言うのか」 「…私の勝手でしょう」 「俺がそれを許すと?」 「私に強要しないで! それは、結婚の条件だわ」 アレクの言い方はなんだか 冷酷だった。最近、時々 そう感じる。でも、今日は それ以上にレティの 気が立っていた。家政婦に 対する苛立ち。服装の 惨めさ。そして何より アレクがわかってくれない こと。小さなことだけど、 レティはそれなりに 傷ついているわけで、 夫には、何も言わず 慰めて欲しかった。でも、 そういう風に頼ろうとする 自分が、もっと嫌だった。 「条件!?そんな話を…」 「なんですって!? 結婚契約書にも ちゃんと書いてあるわ」 「だから、今は そんなことは言って…」 「馬鹿にしないで! 約束は約束でしょう!? …もう嫌!こんなことなら 結婚なんて…」 「何だと」 「…もういい」 「レティシア!」 レティはついと顔を背け、 その場を立ち去った。 強引に腕をつかまれる ことを、少しだけ期待して いたが、盛大なため息が 聞こえる以外は 何も起きなかった。 食事をする気にもなれず、 部屋に戻ったレティは、 薬指から衝動的に 結婚指輪を引き抜いた。 いっそ床にたたき付けよう かと思ったが、やめた。 その行為はあまりに醜い。 アレクは、それにも増して 指輪は、何も悪くない。 私という人間は、どうして こうも汚れているの? アレクが外出する音が 聞こえる。生涯で今が もっとも惨めだ。
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