序章

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「…ああ、とうとう 私達の大好きなお母様が 逝ってしまったのね」 それは、まさに秋が冬に 変わろうという寒い日の 早朝のことだった。 「なんて淋しいのかしら」 「でも…、最期は意外な ほど安らかだったわ」 「本当に…。五年も 苦しんだんだもの。 せめてもの救いだったわ。 ああ…お母様、天国でも どうか安らかに! お父様とお幸せに…」 「さあ、これからは 私達二人で協力して 生きていかなくちゃ」 「私…、もう泣かないわ」 「フィル、あなた 結婚したい?」 フィリエルは少し考える 顔をして、それから はっきりと答えた。 「…したいわ。ちゃんと した家庭を築いて、 母親になりたい。 …お姉様は?」 レティシアは少し狼狽した 顔をして答えた。 「私は…いいわ。 したくない」 「…お母様のような 母親に、なりたくない?」 「なりたいわ! もちろんよ。…でも無理。 とてもそんな気に なれない…」 「レティお姉様…」 「私のことはいいのよ。 …とにかく、叔母様に 手紙を出しましょう。 半年たって、喪が明ける 頃にはちょうど夏の 社交シーズンだわ。 フィルの望みを知れば きっと面倒を見て くださるはずよ」 「もちろん、一緒に行って くれるのでしょう?」 フィルはひどく真剣な目で 姉を見据えた。それに 気圧されて、レティは ぎこちなく頷いた。 「ああ…、そうね。 その方がいいのかしら…」 「当然よ!私一人なんて 無理だわ。社交界は 初めてなのに…。 お姉様が支えてくれないと とても乗り切れないわ」 「経験がないのは 私も同じなのよ?」 「でも、二人で 協力できるでしょう?」 「…わかった。私も 行くわ。でも…結婚する つもりはないから」 「ええ。…いい人が いなければね!」 「いい人なんていないわ」 「でも、私はその中から 夫を選ぶのよ」 「フィルには見つかるわ」 「…私、お姉様が認めて くれる相手でないと 結婚しないわ」 「どんな人を選んでも 大丈夫よ。…私が あなたを守るわ」
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