嵐の夜1⃣

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さて、原因の残り半分は 今目の前にいるこの人だ。 「私のクローゼットの 鍵を知りませんか、 エア夫人」 「…奥様のクローゼットの 鍵ですか?」 「ええ。リジーはあなたに 預けたと言っています」 「何のことでしょう…。 心当たりがありません」 家政婦の視線は、レティの 恐ろしく地味なドレスを さ迷っている。アレクが 作ってくれた美しい流行の ドレスは全て鍵のかかった クローゼットの中。 着るものがなくて仕方なく トランクに入れっぱなしに なっていた、結婚前の 地味なドレスを着たのだ。 「リジーは、鍵を かけたのも、あなたの 指示だと言っていますが」 「確かに…奥様の持ち物の 保管は、特に注意する ようにと、再度、言い付け ました。この前の、 大奥様のイヤリングの件が ございましたから…」 アレクの母、前侯爵夫人の 宝飾品は、大部分が リーグラント家の本領の 屋敷に保管されている という。でも、いくつかは この屋敷にもあった。 アレクはそれを、使うと いいと、レティに渡して くれた。とは言え、そんな 大切なものを軽々しく 使えない。鏡台の 引き出しにしまっていた。 でも、その中に一つ、 とても気になるイヤリング があった。サファイアと ダイアがついていて、 レティの結婚指輪に ぴったりのデザインなのだ。 先日、思い切って使わせて 貰おうと、引き出しを 開けた。すると、そこは からっぽだった。血の気が 引くのを感じながら、 部屋中の、あらゆる 引き出し・扉を開けて 捜索した。でも、見つから ない。なくしたでは 済まないものなのに。 その時、アレクは 例によって外出していた。 レティは泣きそうだった。 結論から言うと、 イヤリングも含め、全ての 宝飾品は見つかった。 それも、屋根裏にある 金庫の中から。どんな 誤解があったのか、それは レティの指示による措置 ということになっていた。
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