嵐の夜1⃣

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金庫の鍵の管理者は、 エア夫人だった。屋敷の 様々な鍵を預かることは 家政婦の権威の象徴なのだ。 宝飾品をしまったことに ついて、エア夫人は リジーから、レティが 厳重な保管を望んでいると 相談を受けたからだと 答えた。もちろんレティに そんなことを頼んだ覚えは ない。リジーは半泣きで 謝っていた。リジーは幼く 朴訥な娘だ。彼女が悪い 訳ではない。でも、 レティだって誤解される ような言い方はしていない はず。たぶん、誰かが、 リジーの理解を操作して、 故意に誤解させたのだ。 「ですが…私は、当然の 措置だと思いました。 これは奥様…ああ、 先代の侯爵夫人の、 大切な遺品ですから 管理を厳重にして し過ぎるということは ありません。奥様も それをよくわかっての 判断だとばかり…」 そんな風に言われて、 いったい何と言い返す? 相手は長年信頼されてきた 家政婦で、自分は田舎者。 こんなことで揉めたくない。 「…では、このまま 保管して下さい」 この話をアレクに 相談していたら、何か 変わっただろうか。 いや、そんなことは 考えるだけ無駄だ。 「鍵のこと、本当に 知らないんですね」 「…私をお疑いですか?」 憤慨するならまだましだ。 彼女の目には侮蔑が浮かぶ。 レティは威圧されてしまい それを不遜だと、なじる 勇気もしぼんでいく。 「…もういいわ」 「では、失礼します」 リジーが、泣きながら 脈絡なく話したことを 総合すると、彼女は、 家政婦に命じられて クローゼットに鍵をかけた。 さらに要求され、鍵を 預けたが、開けるために 返してほしいと頼んだら、 そんなものは知らないと 言われたのだという。 つまり、やっぱり 家政婦の陰謀だ。 イライラがつのる。 なのに我慢しているのは、 結局ここが、アレクの 屋敷だからだ。夫に面倒を かけてはいけない。 家政婦一人とさえうまく 付き合えない田舎者だと 思われなくない。 それ以上に、本当はとても つらいのに、くだらない こととして扱われることが わかってもらえないことが 怖いのだ。
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