グラハート

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庶民の暮らしは、どこでも そう大差ないが、 グラハートの上流階級は 季節によってやることが 違う。まあ、王の移動に 従えば、住む場所が 変わるのだから、その方が 合理的なのだろう。 冬は政治のシーズンだ。 爵位を持つ者の貴族院と 持たない資産家の評議院の 二つの議会が開催され、 国のありようというよりは 自分の利益をいかに守るか について、喧々囂々たる 議論が交わされる。 また商品の売買や契約が 盛んになるのも この時期である。 土地や道具の整備など 皆が新たな生産期に 備えようとするのだ。 春と秋は生産の実務期だ。 土地を持つ者は植え付けや 収穫に心血を注ぎ、 流通も活発になる。 そして、夏は社交の シーズンだ。娯楽を楽しみ 人脈を広げる。大抵の 上流人は、この時期に 結婚相手を見つけるのだ。 感心することに、彼らは それでも、刹那的な享楽に 走ることがほとんどない。 遊びに日々を過ごし ながらも情報を収集し、 投資組合を組織したり 新たな事業を立ち上げたり と金儲けのチャンスを 無駄にしないのだ。 ところで、グラハートに おける上流階級の定義は 大陸上辺の国々、例えば アニバールなどとは ずいぶん違う。後者では、 上流人とは国家官僚の ことであり、血統によって 自動的に授けられる 爵位に応じて、官職を 与えられる。つまり、 アニバールにおける 貴族とは王家の家臣と 同義なのだ。そして、 爵位を持たない者は、 まず上流階級とは 認められない。 一方、グラハートでは 資産家であれば、表面上 上流人として受け入れ られる。血統を重んじる 意識が、ないではないし 法律などは、むしろ 血統主義で排他的だが 富を目の前にすれば 背に腹はかえられない というのが、彼らの 考え方なのだ。 そもそも、グラハートの 支配階級は地主から 発生しており、大小の 領主達が連合して国を 造った訳なので、 貴族達には公職の給料で 国に養われるという 発想がないのだ。
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