グラハート

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グラハートにおける 爵位とは、端的に言って 減税特権なのだ。同じだけ 儲けても、高い爵位が あれば、課税が少なくて 済み、資産の増加が早い。 だから、貴族を尊敬する、 という観念だ。 彼らにとって多大な実利が あるので、国は爵位の 管理に慎重だ。相続は 基本的に三親等以内の 男子に限られ、該当者が いなければ、断絶となる。 爵位を持つ者の未亡人には 孤閨を守る限り、夫の 生前中の八割の特権が 与えられるが、遺族が 爵位を国に返上すれば 代償金が支払われる。 この場合、爵位公領 つまり、爵位と一体の ものとして継承されて いく土地も、国庫に 返上されることになる。 まあ、相続できない 土地など何の足しにも ならないのだから、お金に かわる方がいいのだろう。 国にとっても減税対象が 減ったり、国有地が 増えたりと、双方に 旨味のある制度と 言えるかも知れない。 ついでなので、一つ ややこしい規定も 説明しておこう。 直系女子に限り、有爵位者 本人が行う煩雑な手続きと 申請が認められれば、 一世代に限り、隔世相続が 認められるというものだ。 つまり、娘の産んだ男子に 爵位を相続させることも できなくはないのだ。 ただし、苦労して申請が 通っても、隔世相続が 成立するには、その子供が 正式な結婚における子 であること、父親が三代 遡って純粋なグラハート人 であること、かつ貴族 (現在爵位を持つ者の 三親等以内の者のこと) であること、という 厳しい条件があるので よほど高い爵位でない限り なかなか成功しないとか。 グラハートでは、とにかく 男性の、家長の権限が 強い。女性の財産は 結婚すれば全て夫の 管理下に置かれるし、 妻や娘は遺言も含め 家長の命令に法的にも 逆らえない。 グラハートは旅をするには いい国だ。風景は美しく 見るべきものも多い。 だが、暮らしていくには 覚悟が必要だ。成り上がる チャンスも多いが、罠は それ以上に溢れている。 それでも私は、こんな グラハートが、案外 気に入っている。
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