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花緋の父親は唐笠売りだった。
村では皆煙たがって働き口などどこにもなく、父親は毎日山を越えて町まで売りに行っては夜になるとまた山を越えて帰ってくると言う生活を繰り返していた。
「じゃあ心配してんじゃねぇのか?」
「おじさん、心配性だからね~」
晋作の言葉に相づちをうつ栄太郎。
「ホントお父さんの心配性には参るよ。この間なんかちょっと遅くなっただけで大号泣だからね」
今またあの時のように号泣してるかもと想像し、ため息をつく花緋。
「―――――ッ!!」
花緋の家が見えて来た時、何か悲鳴じみたものが聞こえたような気がした。
3人は思わず顔を見合わせる。
花緋の中に嫌な予感がよぎる。
花緋は頭が真っ白になりながら家へと走り出す。
晋作が制止する声も聞こえない。
全速力で駆ける花緋。
わらじが片方脱げたがそんな事気にもならない。
母に贈る桜を片手に握り締めて花緋は走った。
――まさか、お母さんが…!?
嫌な予感が全身を貫いていく。
晋作と栄太郎も花緋の背中を追いかけて走る。
「お母さんっ!!」
家に着くと息もつかずに花緋は引き戸を勢い良く開けた。
そして家の中の光景を目にして、花緋は固まる。
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