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薄暗い室内に立ち込める、顔をしかめたくなるような鉄の匂い。
自分のすぐ足元には血まみれの父親が生気のない顔で倒れている。
帰って来たばかりだったのだろう、父親の周りには今日売れ残ったであろう唐笠が辺りに散らばっていた。
そして奥に目をやれば、布団の上で重なるようにして倒れている同じく血まみれの母親と祖母の姿。
2人共、ピクリとも動かない。
花緋はあまりの衝撃にカタカタと震え出す。
晋作と栄太郎も花緋に追いつき、中の情景を目の当たりにして絶句した。
これは何?
悪い夢?
こんなのオカシイ
「お~丁度いい所に帰って来たなぁ嬢ちゃん」
部屋には刀を片手に持つ汚い格好をした浪人風の男が2人、ヘラヘラ笑いながら立っていた。
刀からは血がポタポタと滴っている。
放心状態になっている花緋を庇うように前に出る晋作。
男の発言が気になり睨みながら男達に問いかける。
「貴様等、『丁度いい』とはどういうことだ…?」
晋作も栄太郎も腰の刀に手をやり、いつでも抜刀できる姿勢をとる。
そんな晋作達をバカにするように2人の男はニヤリと笑う。
「おいおい、ガキが粋がって刀なんか握ってんじゃねえよ。
大人を舐めてると痛い目見るぜぇ?」
男の挑発ともとれる物言いに晋作は眉をピクリとさせるが刀を鞘から抜き放つと前に構えて低い声でもう一度男達に問う。
「質問に答えろ。最初から“花緋も”斬る対象に入ってた…そういう事か?」
「そうだ、と言ったら?」
ニヤニヤしながら刀をゆっくりと構える男。
「そんな事、僕達がさせない」
そう言う栄太郎の顔からはいつもの穏やかな笑みが消え鋭い目で男達を見据え、花緋の肩を抱きながらスラリと刀を抜く。
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