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沖田は話した。
花緋が何を怯え、何に苦しんでいるのか―…自分が知りうる原因の全てを。
生まれ故郷での村人達からの疎外、蔑み。
唯一の親戚からの長きに渡る虐待。
疎ましいと云わんばかりの目が怖いと、花緋は言っていた。
沖田は時折、自分の事のように苦しげに言葉を詰まらせながら、それでもひたすら口を動かした。
新見はその間、何も言わずにただ黙って沖田の話を聞いていた。
そして沖田が全てを話し終えた時、新見はただ一言ポツリと呟いた。
「そうか…」
ただそれだけ。
他には何も言わなかった。
それだけを零すと新見は「早く広間に急ぐぞ」とだけ残して、足早にこの場を去った。
新見は花緋の過去を聞いて、一体どう思ったのだろう。
何を感じ、何を考えたのだろうか。
しかし、何も語らない新見からはそれを知る術はない。
沖田は小さくため息をつくと、チラリと花緋の眠る部屋の方に視線をよこす。
それから重い腰を上げると、特に急ぐこともせずゆっくりと広間へと歩みを進めた。
「…あれ…?」
目が覚めると、そこは布団の中だった。
花緋はゆっくりと体を起こす。
自分の姿を見てみると胴着のままである事に気づく。
「あ…、そっか…」
花緋は思い出した。
新見の“疎まれる”という言葉に過剰反応をして、我を忘れてしまったことを。
格子から覗く夕陽がやけに胸に染みた。
そして一人、自嘲気味に呟いた。
「私は―…いつまで経っても弱いままだ…」
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