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「花緋!もう大丈夫なのか!?
総司から花緋が倒れたと聞いて、心配していたんだ」
「はい、もう平気です。
心配かけちゃってすみませんでした。
…で、あの~隊服の採寸の方はもう終わっちゃいました…よね?」
花緋が広間に駆けつけた時には既に誰の姿もなかった。
既に日が傾いているのを見て当たり前か、と小さくため息をつく。
どうしようかと悩んだ挙げ句、花緋は近藤の部屋を訪れたのだ。
「ああ、そうだった。
今日はもう呉服屋の主人が帰ってしまったからな。
花緋、お前は明日直接店に行って採寸をしてもらってきなさい」
「直接―…ですか?
分かりました」
近藤の言葉に花緋は小さく頷いた。
明くる日の朝、花緋は朝食の洗い物を手際良く片付けると、一人屯所を出た。
近藤に聞いた道順を思い返しながら花緋は京の町を歩く。
一人でこうやって歩くのは、久しぶりだった。
見廻りで巡回したり、沖田と甘味屋に行ったりはよくしていたけれど、たまには一人でゆっくりと歩くのも良いものだと、花緋は顔を綻ばせずにはいられなかった。
壬生からしばらく歩くと、程なくして川沿いに面した通りまでやって来た。
「葵屋、葵屋…っと」
キョロキョロと辺りを見渡しながら昨日近藤に言われた店名の看板を探す。
しかし通りの終わりまで来ても葵屋は見つからなかった。
「あれ~?ないなぁ…川沿いの通りってここじゃないのかなぁ」
ブツブツ言いながらもう一度来た道を往復する。
そして道半ばにさしかかった頃、事件は起きた。
「ナメてんのか糞餓鬼がぁ!!」
「もういっぺん言ってみやがれ!!」
通りに響いたのは汚らしい男達の罵声。
何ともありきたりな台詞…、と心の中でこぼしながらも花緋は小走りで周りを取り囲む野次馬の群の中に潜り込んでいった。
「何回でも言ってやらぁ、このハゲ!!
お前達からぶつかって来たんじゃねぇか!!
何で俺が謝んなきゃなんねーんだよ!!」
「またハゲって言いやがったな!?
兄貴が気にしてることをズケズケとこの餓鬼!!」
「もういっぺん言えっつったのお前達じゃんか!!」
ぎゃーぎゃーと不毛な言い争いを繰り返している浪人らしき男達二人とやけに威勢の良い少年が一人。
どうやらどちらが先にぶつかったかで揉めているらしい。
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