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しかししばらく野次馬に混じって言い合いを傍観していたが花緋だったが、次の瞬間目を見開く。
少年の度重なる暴言で完璧に頭に血が昇ってしまった男の一人が腰の刀に手をかけたのだ。
少年を見れば、当たり前ながら丸腰。
棒きれの一本すら持ってはいなかった。
流石にこれは見逃せない。
花緋は腰の刀に手を添えると、野次馬の間を縫って前に出た。
「そこまでです」
「!?何だてめぇは!!関係無いやつは引っ込んでろォ!!」
凛とした花緋の声に男達は振り返る。
そして刀に手をかける花緋を一瞥して怒鳴り声を上げた。
しかし花緋はひるむ事もなくゆっくりと男達との距離を詰めていく。
――もう、刀に怯える事はない。
私は―…戦うことを覚えたのだから。
「大の大人が二人がかりで丸腰の子供相手に刀を向けるなんて―…恥ずかしいとは思わないんですか?」
冷めた表情でゆっくりと向かってくる花緋に、男達は刀の切っ先を向けた。
構えなければやられる、何故か男達の脳裏にはそんな考えがよぎる。
「て、てめぇみたいななよなよした餓鬼に何ができるってんだ!!いきがるのもいい加減に――」
「それはこっちの台詞です」
男の言葉を遮ってポツリと呟くなり、花緋は地を蹴って一気に間合いを詰めた。
――今の私なら、できる…!
花緋は、まだ一度も刀で人を斬った事がなかった。
というのも今までは町に出かけるにしても見廻りに出て不逞浪士を取り締まる時にしても、常に花緋の近くには沖田がいた。
そして沖田は決まってこう言うのだ。
「僕一人で十分です」
そしてその言葉は過信でも何でもなく、事実。
花緋に手助けさせる間すら与えず、沖田は全ての敵をたった一人で斬る。
花緋は分かっていた。
沖田は、優しいから。
血を浴びるのは自分一人でいい、そう思っているのだ。
花緋は、一人だけ血塗れになり笑顔で振り返って「怪我はありませんでしたか?」と問う沖田を見る度に胸がギュッと苦しくなった。
別にあえて人を斬りたいなどとは思わない。
しかし、ふいに頭をよぎるのだ。
私は一体何の為に刀を握ったのか。
守られる為について来た訳じゃない。
自分の力を少しでも役に立てたかったから―…だから今、ここにいるのだ。
いつまでも沖田の優しさに甘えてばかりではいられない。
花緋は、刀を握る手に力を込めた。
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