878人が本棚に入れています
本棚に追加
「…晋ちゃん………!」
面倒くさそうに頭をガシガシと掻くその姿は紛れもなく晋作、その人だった。
「馬鹿かお前は。
何でもかんでも一人で首突っ込んでんじゃねーよ、ったく」
悪態をつきながらも尻餅をついている少年を片手でヒョイと持ち上げて立たせる。
晋作の持つ抜き身の刀を見ると、血には染まっておらず綺麗なままだった。
どうやら晋作も、花緋と同様に峰打ちをするに留めたらしい。
「怪我はない?」
「う、うん」
腰をかがめ肩に手を置いて心配そうに眉を寄せる花緋に、少年は先ほどまでの威勢はどこへやら、俯いたまま小さく頷いた。
花緋はそんな少年の様子に、安心してホッと息をつくと立ち上がって晋作に顔を向けた。
「晋ちゃんありがとう。
助かった…」
「ったく…俺が通りかからなかったら今頃お前とこのガキの命はなかったぞ。
これに懲りたらもう一人で無茶すんなよ」
「う…ご、ごめんなさい…」
晋作に拳で軽く小突かれて、花緋は頭を押さえながら頭を垂れる。
そんな花緋を少年は一生懸命声を張って見上げた。
「兄ちゃんは“みぶろうしぐみ”っていう所にいんのか!?」
「へ?あ、うん。そうだよ」
“兄ちゃん”と呼ばれて一瞬誰のコトを差しているのか分からなくなった花緋は間抜けな声を出すが、そういえば自分は男装をしているんだと気付くと笑顔で少年の言葉に頷いた。
「私、風間花緋っていいます。よろしくね?
それで…えーっと、君の名前は?」
「はなび…?男にしては変わった名前だな。
おれの名前は市む…」
「鉄~」
少年の声を遮るように、後ろから誰かの間延びした声が響いてきた。
「あ、兄貴!!」
表情を明るくする少年の言葉に花緋と晋作は後ろを振り向いた。
そこには一人の男性の姿。
少年の姿を見つけると笑顔になってゆっくりと歩み寄ってきて、少年をふわりと抱き上げた。
「何してたんだ鉄~。大根買いに行ったっきりなかなか帰って来ないから心配してたんだぞ~」
緊張感のない喋り方のせいで本当に心配していたのか疑いたくなるが、きっとこの人は常にこういう喋り方なのだろう。
“鉄”と呼ばれた少年は兄に抱っこされて顔を真っ赤にして暴れる。
「やめろよ兄貴~!!いつまでも子供扱いすんなっ」
「な~に言ってんの。
鉄はまだまだお子ちゃまでしょ~。
ほら、サッサと大根買って帰るよ~」
.
最初のコメントを投稿しよう!