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心が揺れる。
一緒にいたい。なのにいられない。
離れたくない。なのに二人の間には目に見えない溝がある。
このまま晋作と手を取って共に行けたら―…きっと、幸せなんだろう。
でも、それはできない。
裏切れない。裏切りたくない。
子供のようだと言ってくれた近藤も、全てを受け入れ胸を貸してくれる沖田も、豪快に笑い飛ばして許してくれた芹沢も、憎まれ口を叩きながらもさり気なく気にかけてくれる新見も―…。
あの人達を裏切って自分だけが幸せを掴むなんて、そんな事できるわけがない。
いつまでもどっちつかずな自分、…―なんてズルい人間なのだろうか?
花緋は言葉を放てば全てが言い訳にしかならないと思い、口を開く事ができずに黙り込んでしまった。
そんな花緋を見て小さくため息をつくと、晋作は花緋の肩からそっと手を離すとその手を優しく花緋の頭に乗せた。
ふいに頭にぬくもりを感じ花緋はゆっくりと顔を上げる。
そこには、穏やかな笑みを浮かべた晋作の姿。
晋作のそんな表情を見るのは初めてで、花緋は思わず見とれてしまう。
「悪い…お前が自分で選んだ道に俺がとやかく言う筋合いはないよな。
せっかくの決心を…踏みにじるような真似して悪かった」
「あ、謝らないでよ晋ちゃん…。謝られちゃったら私…」
どちらを選んでも誰かを傷つけてしまうのなら私は益々分からなくなってしまう―…。
花緋は言葉を詰まらせながら晋作の着物をキュッと掴んだ。
頭では一緒にいけないって分かっているのに、体がそれを否定している。
離れたくないと四肢が叫んでいる。
しかし、それでも―…
花緋は震える手をゆっくりと着物から離して、一歩晋作から距離を取った。
「ごめんなさい…これ以上一緒にいたら本当に離れられなくなっちゃうから…」
そう言って、また一歩後ろに下がる。
晋作は少し悲しげに眉根を揉むが、すぐにいつものぶっきらぼうな顔に戻して顎で行けと促した。
「ごめんなさい…!!」
花緋は涙で目の前が歪んでいくのを感じながら、後ろを振り向いて路地を飛び出した。
「あーあ、…ガラにもない事しちまったな」
一人残った晋作は目を細めて、路地から微かに見える細い青空を仰いで呟いた。
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