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そんな花緋を見て沖田は小さくため息をつくと、そっと処置し終えた花緋の左手から手を離した。
「――分かりました、無理には聞きません。
……でもいつか一人で抱えきれなくなった時は、僕を頼ってくださいね」
そう言って沖田は笑った。
花緋は何も言えなかった。
沖田の優しさが胸を突き刺す。
それが痛くて後ろめたくて、花緋は沖田を直視できなかった。
左手がうずく。
自分でも馬鹿なことをやったなんて、分かりすぎるくらい分かっている。
それでも、こうでもしなければいつまでも心が定まらない。
それは、どちらともを裏切ってしまうことになる。
花緋はそんな事をぼんやりと考えながらもう既に月が顔を出している中庭に立ち、右手一本で竹刀を振っていた。
強く、強く、少しでも強く。
力が欲しかった。
一人で全てを抱えられる程強くなりたい。
汗だくになりながら花緋はただひたすら竹刀を振るった。
「おはようございます近藤さん」
「やぁ、おはよう花緋」
左手を袖の下に隠したまま、花緋は広間に顔をだした近藤に笑顔で挨拶をした。
同じく炊事場を取り仕切っている井上にだけは怪我をしていることを話したが、内緒にしてもらっていたため沖田と井上以外は誰も花緋の怪我を知る者はいなかった。
「そういえば昨日葵屋の道、分かったかい?」
近藤の言葉に花緋はビクリと肩を揺らす。
それから申し訳なさそうに眉を下げて近藤を見た。
「すみません……実は昨日、ちょっと色々あって行けなくて……。
今日こそ行ってきますから」
「そうかそうか。気をつけて行くんだよ」
案外、“色々あって”のところに突っ込まれなくて花緋はホッと胸をなで下ろした。
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