“始”

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花緋は再び昨日と同じ頃に屯所を出た。 今日こそ採寸を終わらせなければ、と意気込んで町に向かう。 今度はさすがに迷わずに真っ直ぐ葵屋にたどり着いた。 紺色の暖簾をくぐって「すみません」と声をかける。 すると奥から人の良さそうな中年の男性が顔を出した。 「はいはい、今日はどないなご用やろ」 「あ、あの私壬生浪士組の隊服の採寸をしてもらいに伺ったんですけど」 「あ~浪士組の!話は近藤はんから聞いてます。 にしても……随分と若いお侍はんやなぁ」 花緋を下から上まで見渡して、感心したように頷く店主。 そんな店主に花緋は曖昧に笑って特に何も言わなかった。 「じゃあ、出来次第そちらに持って伺いますよし、お伝えしといてください」 「はい、分かりました」 では、と軽く頭を下げると花緋は店を出た。 後は夜の巡察まで帰って稽古でもするか、と花緋は屯所の方へ歩みを進め出す。 しばらく歩いてもうすぐで通りを抜けるという時、そこでまたもや騒動が起きていた。 野次馬が一軒の店の前に群がっている。 花緋はまたか……、と肩を落としながらも治安を乱すものは見過ごす訳にはいかないと昨日と同じように野次馬に向かって歩いていった。 てっきりまたどこかの浪士か何かが暴れているとたかをくくっていた花緋。 店に近づいた時、ふいに野次馬の中から聞こえてきた言葉に花緋は耳を疑った。 「最近江戸から京に来た壬生浪士組とかいう連中や」 「治安を守るどころか乱してるやないの! あれじゃ浪士組やのうてただの狼の群れや、“壬生狼”や!!」 ヒソヒソと囁く野次馬の声に花緋は一瞬、頭が真っ白になる。 この騒動の原因は、浪士組の人が―……!? そんな考えが頭をよぎった瞬間いても立ってもいられなくなり、花緋は思わず野次馬をかき分けて店に突っ込んだ。 そして、目の前に広がる光景に花緋は絶句する。 「ん……?ああ、何だ花緋か」 「せ、りざわさん……」 そこには店主の喉元に鉄扇を突きつける芹沢の姿があった。 .
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